コピーライターなんて

なるもんじゃない

 

 

コピーライターとしてこんなに中途半端な位置にいる私でも、コピーライターになりたがっている人、またはなりたての人から相談を受けたことがあります。さすがに面と向かっては言えませんでしたが、私はコピーライターという職業に就くことを、100%おすすめしません。ひとつには、なりたがっている人の描くコピーライター像があまりに現実とかけ離れているため。もうひとつは、儲からないからです。
 
 

・・・あなたはなぜコピーライターに
なりたいんですか?


 
 

将来、小説家やエッセイスト、コラムニストになりたいからですか? だったらこんな寄り道なんかせず、もっとそっち方面へまっすぐ続く近道をめざしてください。えっ、林真理子とか喜多嶋なんとかとか、コピーライター出身の作家がいるじゃないかって? 中谷彰宏とかはどうだって? 
じゃああなた、その人たちがどういう広告を作っていたか知ってます?知らないでしょ? 彼らは広告制作者として、特に名を残したとは思えません。逆に言えば、さっさと広告の道に見切りをつけたからこそ、彼らは今の地位を築いたのです。

才能がなかったとは言いません。私は林氏や喜多嶋氏のコピーを知っていますので(中谷氏については、彼が広告関係のどんな職にあったかも知りません。嫌いだし♪)。実は、私の元同僚のコピーライターで、小説家になった人もいるのですが。私の目から見て、彼はそれほどコピーライターとして優秀だったとは思えません。ちょっと口はばったいですが、ある意味では小説家になってよかったといえるでしょう。
だいたい、コピーライターから作家デビューにつながるルートは、ほとんどといっていいほど存在しません。件の元同僚も、ある小説雑誌の新人賞に、単なる一般応募者として投稿した結果デビューできたのです。真剣に作家などになりたいなら、そうした賞に応募するなり出版社に持ち込みするなりしたほうが確実でしょう。コピーライターとして働いてると、どうしても執筆の時間がなくなることでもありますし。

それに、ここが肝心なのですが。コピーライターなんぞという職業は、文章力の修行にはなりませんちょっと考えればわかるはずです。広告の文章を見て、“うまいなぁ”と感心したことがありますか? より多くの人にわかる平易な表現をめざす広告と、理解できる人を限定してでも読者をうならせる表現を追求する小説では、文章の質が自ずと違ってきます。私は時に、わざと間違った日本語を遣ったりもします。この文章もそうですね、句読点の使い方とか体言止めとか妙な倒置とか。それは、一般の人がそういう日本語を遣っているからです。ひとりでも多くの大衆に訴えることが目的である広告の、これは宿命です。
 
 

それから、タレントとかに会えそうだからと考えているミーハーなあなた。ばーか。こんなばかのために文字数を割くのはイヤなんで簡単に済ませますが。タレントに会いたいんだったら、芸能事務所だとかテレビ局だとか番組制作プロダクションとか、そっちに行ったほうがずっと確実です。

広告制作業はマスコミではありません。さらに、広告の仕事の中でも、コピーライターは有名人に会う機会が最も少ないかもしれません。広告に関わりながらタレントにも会いたいと虫のいいことを考えているあなたは、CMディレクター=演出家、CMプランナー、プロデューサー(プロダクションマネージャー)、アートディレクター、または代理店の営業とか広告主企業の宣伝部員とかをがんばってめざしてください。
私は、ある有名芸能人を起用した年間キャンペーンに参加しましたが、そのタレントに会うことはついにありませんでした。
 
 

“一発当てたい”だぁ?? さらにばーか。コピーライターは、そういう職業じゃありませんってば。たった一回ヒット広告を作って、それでずっと生活できると思っているあなた。あなたみたいな人とまかり間違って仕事をすることにでもなったら、非常に迷惑なので、今すぐ考えを改めてください。10年前ならいざ知らず、今では“一発当て”られるようなことは一切あり得ません。

広告制作者に求められるのは、一本のホームランを打つより、コツコツ安打を打ち続ける能力です。どんな商品を担当しても、ある程度の成果をあげられる広告を作れなくては、プロの制作者ではありませんし、次の仕事もやってきません。コピーライターの仕事は、想像以上に地味なのです。
この“一発当てる”云々は、私の知人からも言われました。彼の職業は映画雑誌などのライターですが、そっちのほうがよほど“一発”の要素には恵まれてるだろうに。私はこういう、コピーライターの仕事について何も知らないのに適当なことを言う奴が大嫌いです(だって知らなきゃ言わなくてもいいのに)。ついでに言わせてくださいね。ばーかばーか
 
 

他にもいろいろな動機があるでしょうが、私が認めるのはただひとつ。“広告が好きだから”の一言だけです。私の場合は幼稚園の頃からCM・広告が好きで、それに育てられたとまで思っています。だから、自分の得意分野である文章表現から広告作りに関わることのできる、コピーライターの職を選んだのです。
それを決めたのが中学生の頃。高校では雑誌のコピー塾に投稿し、そこで常連となり、コーナー担当だったコピーライターと知り合いになりました。大学も、コピーライターになるための勉強ができ、広告代理店などへの就職率が高いところを受験しました。そして、前出のコピーライターから大学を出なくてもコピーライターになれると聞いて、さっさと中退して制作プロダクションへ就職しました。
 
 
 

・・・しかし、そんな私でも、コピーライターになるのはやはりおすすめしません。

それは、もうひとつの理由、「儲からない」ことによります。
 





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