コピーライターには2種類いる

 
 

博報堂のコピーライター/クリエイティブディレクターの笠原伸介氏は、こんな発言をしています。「一時期、残業残業でとっても忙しいことがあって、フェアレディZ衝動買いしました」。残業代で収入が増えたはいいが、使う時間がなくて・・・ってことのようですが。
ああ、そうですかぃ。私なんかだと、月200時間残業したことありますけど、そんな状況にはなりようもなかったんですけどねぇ・・・。
てなわけで、コピーライターの境遇の違いについて。
 
 

なぜ私が上記のようなグチをこぼしたか。残業代をもらったことがないからです。
今までコピーライターとして計5つの制作プロダクションに勤めましたが、残業代の出た会社はひとつもありません。ほとんどのプロダクションには残業代という制度がないようです。
つけ加えると、ボーナスをもらったことも1回しかありません。ボーナス制度があるプロダクションも半々くらいのようです。
※個人的には、残業代なんてなくていいと思います。仕事が多過ぎるのか、本人の能力がなさ過ぎて正規の就業時間内に終わらないのか、判別つきませんから。その分をボーナスに加えるか、本給を上げるかで報いるべきじゃないですか?
 

私の現在の月収は税込みで30万円強。月給としては高いかもしれませんが、収入はこれだけです。ボーナスも各種手当も何ひとつありません。年収は×12で400万弱。同じ31歳のサラリーマンの年収より低いと思います。一度雑誌で、ある会社の社員(28歳)が「収入は安いですよ、年400万くらいですし」とかほざいてたの読んで、ホント腹立ちました。
こっちが夜8時まで無料残業して仕上げた原稿をFAXで代理店に送って、確認の電話をかけると「××は帰りました」って・・・。あんたは残業代つくんだから、もうちょっと待ってろよ。
 

代理店の社員の待遇は、一般サラリーマンと何ら変わるところがありません。
10時に出社して6時に退社、それ以降は残業代が出る。最近はフレックス制の採用も増えています。
ボーナスは年2回必ず出る。休日出勤したら代休がある。有給休暇は、上司の顔色を伺いながらも自分の都合でとれる。特別休暇なんてものまである(博報堂の社内では毎年、8月近くになると「有休と特休合わせて一週間くらい連続して休みましょう」なんてポスターが貼られます)。
コピーライターだとこれに、スーツを着て行かなくていい、1〜2時間の遅刻は大目に見てもらえるなどの特典までついてきます。
 

対してプロダクション
勤務時間はあってなきが如し。徹夜はもちろんよくありますが、残業代はそういう規定がないので初めから出ません(代わりに夕食代を会社で負担してくれる「残業食代」なんて制度がよくあります)。
ボーナスは出るところもありますが、会社が赤字なら平気でゼロになったりします。有休なんてとってるヒマありません(たいがいはその会社を辞めるとき、数年分を1ヵ月とかまとめて休んだりします)。
代理店のコピーライターと同じなのは、出勤が必然的にフレックス制に近いこと(そりゃ朝5時まで働いてまた朝10時に出てくるなんて、何日も続けられませんし)、服装が自由なこと(給料安いんだからスーツ何着も買えませんてば)くらいでしょうか。
 

これがフリーランスなら、多少はうま味が出てきます。
残業代やボーナスは当然ありませんが、サラリーマンではないので確定申告があります。会社員の必要経費は所得金額の何%という形で必然的に決まってしまいますが、フリーの場合は、たとえ出費が収入を上回ろうとも税務署に認められれば必要経費になってしまいます。私がたまたま確定申告の時期にフリーだった時は、所得税がゼロになり数万円の還付金がありました。
そのうえ出退勤も休暇も服装も、仕事に支障さえなければ100%本人の自由です(広告主に会いに行くときにはさすがにジーンズではダメなので)。
ここ数年、代理店(特に博報堂)を辞めてフリーになる有名制作者が多いのは、この辺の事情ですかね?
 
 

さてさて。代理店プロダクションフリーのもうひとつの違い(ホントはこっちが重要)。
それは、仕事内容がもう違うんです。
 

ある企業で新製品を開発したとします。その広告キャンペーンの依頼は、まず代理店になされます。
代理店は最初に、社内のスタッフで打ち合わせを行います。メンバーはコピーライターやクリエイティブディレクター、アートディレクターやCMプランナーなどの制作スタッフの他に、営業局、マーケティング局、媒体局の各部署の人間。ここで、広告主から提供された製品自体や予算についての情報に基づいた広告戦略が決定されます。
マーケティング局は市場動向などのデータをスタッフに提供し、必要なら新たに調査を行います。媒体局は最も効果的な媒体の使用法を制作スタッフと話し合い、媒体枠の取得を計画します。営業局は予算などを何度も組み直し、また広告主との折衝を繰り返します。
こうした打ち合わせを繰り返した後、広告全体の表現コンセプトが決まります。
 

はい、お待たせしました。やっと外部コピーライターの登場です。しかしコンセプトは既に決まっています。
社外スタッフのあなたのやることは、良くて全制作物に共通するキャッチの開発。通常は、そうしたキャッチは代理店のコピーライターが既に書いていて、テレビCMのプランもほぼでき上がっていて、それに基づいた新聞広告などの展開案を考えることになります。悪ければカタログのコピーライティングくらいしかすることがありません。
(ベテランのフリーランスの場合は例外的に最初の戦略決定の段階から参加したりしますが、あくまで例外です)

つまり、代理店のコピーライターの仕事には、ひとつひとつの広告物の表現についてだけでなく、全体を通した広告戦略の立案までが含まれるわけです。ボディコピーを極力減らす、キャッチもより短く、コピー表現にシンプルさが求められる現在、代理店それ以外のコピーライターの差は想像以上に大きくなっています。
広告制作の流れを川上からコントロールするか、「そんなのわずらわしい」と思って最終表現だけに全力を注ぐか、個人の能力や志向にもよるのでどちらがいいとは言えませんが。電話会社の通話料値下げ広告のコピーが『電話代オサゲします』とか『“ね”が下がっちゃったよ』とか「そのまんまやん!」ってツッコミ入れたくなるようなもんでしかない昨今、やっぱり私は、戦略から考えられる立場にいないと面白くないと思います。
 

良くも悪くも、現在の日本の広告業界は代理店を中心に回っています。代理店の業務内容は商品・ブランド計画に始まり、出稿計画、媒体取得など、非常に広範に亘ります。コピーライターが担当するのはその中の、広告制作というほんのわずかな部分に過ぎません。
コピーライターをめざす人も続ける人も、こんな、自分のステージのサイズを知っておくべきでしょう。