ACC銀賞 26本


ここからはあんまり本数が多いので、気に入ったのだけ紹介。
私がこの発表会で楽しみにしてるのが、東京で見られない地方のCM。で、銀賞ではこれ!
 

西日本鉄道 企業CM 『人と人の結び目』「電車」「高速バス」「路線バス」60秒×3
制作:西鉄エージェンシー+アプト・クリエーション
 

電車、高速バス、路線バスと、西日本鉄道が営業する交通機関を舞台に、それぞれ60秒のドラマが展開される。恋人どうしや友人どうしなど、登場人物はほぼ2人だけ。その2人の関係性を子細に描く。
たとえば『路線バス』編。
部活の大会で負けた男子中学生2人。学校に戻るまでの道のりはけっこうあるのに、1人が、悔しさをかみしめるように、バスに乗りたがらず歩いていこうと言い張る。しぶしぶつきあうもう1人。道中、何度も説得するが、頑として乗ろうとしない。
そこへバスが通りかかる。窓を見ると、可愛い女の子が。途端「おい、走るぞ!」と次のバス停に向かって駆け出す。慌てて一緒に走り出すもう1人・・・

文字で書くだけでは、あまり良さは伝わらないかもしれないが。このストーリーも映像も、とにかくいいのだ。
ありがちな展開をほんのちょっとだけヒネることで、突飛すぎず平凡すぎない物語を作り上げている。
映像も、CMでは三井のリハウスなど、劇場用映画も10本ほど撮っている、両分野のベテラン演出家の市川準氏が作ったと言っても、疑う人は少ないだろう。

しかし、私がいちばん感心したのは、全3編の統一性なのだ。
1編の登場人物を2人に決め、BGMはすべて同じ曲。歌詞も入る同一の曲で異なる60秒の、しかもちゃんと一話完結するストーリーを3本作るのは、案外難しい(CMのトーンを統一することはさらに大切だが、それはディレクターが3本とも同じ人が担当すればたやすい)。
さらにコピーライターとして注目するのは、“人と人の結び目”というキャンペーンフレーズだ。
日常性の高い電車、逆に日常からの離脱をイメージさせる高速バス、そして地域性にとんだ路線バス。この、それぞれ特徴のある3つをくくる言葉として、“人と人の結び目”のコピーはとてもうまい。共通点をしっかり捉え、しかもそれぞれのCMを展開させるための自由度がある。
あいにくスタッフリストが添付されていないので不明な点もあるが、おそらくこのCMでは、コピーライターとプランナーは別人だろう。そして、コピーライターがまずキャンペーンフレーズを作り、その後プランナーやディレクターが具体的なCM案にとりかかったのだろう。

西日本鉄道のホームページでこのCMの情報を探したほど気に入った。東京で仕事をしても、よいものを作れるスタッフたちだと思う。
 

銀賞で他にめぼしいものは、坂本龍一『Energy Flow』の三共リゲイン、マツモトキヨシの♪何でも欲しがるマミちゃんは〜♪。海外でも広告賞を獲得しているWOWOWの、飛行機が墜落しても日本に帰ってWOWOWを見たがる男を描いた『THE BIRDMAN』編。さらに、九州でしか見られない、NTTドコモ九州の田中麗奈のCM。
ま、こんなとこかと言ったところ。
 
 
 

ACC銅賞 31本


ここで挙げておきたいのは、たぶん関西だけで流されたこのCM。
 

プロクター・アンド・ギャンブル・ファー・イースト・インク ジョイ
『あなたがつくるジョイの歌』「加藤さん」「大同さん」「林さん」30秒×3
制作:電通関西支社+エンジンフイルム
 

関東では高田純二が、いきなり見ず知らずの家庭に押しかけて(という設定で)実際に使ってもらう、見る人の神経を逆なでしかねないCMをやっている、あのP&Gの台所洗剤ジョイ。
それがここでは、非常に和んだ雰囲気で商品告知をしている。

出演者は素人の主婦と、吉田拓郎。食器を洗うシーンをテーマにした歌詞を一般から募集し、それに拓郎が曲をつけるという企画。
スゴイのはここからで、優秀作を応募した家に拓郎がギター1本携えて赴き、完成した歌を応募者とデュエットして、それをCMにしてしまっているのである。
応募者の主婦は、自宅の台所でいつものように洗いものをしているが、横にはギターを弾く拓郎がいて、一緒に自作の歌を歌いながら皿を洗っている。考えれば考えるほど、スゴイ企画だと思う。

もうひとつ気に入ったのは、素人ならではの魅力の引き出し方。
主婦3人は、みんなそれほど歌がうまくなく、どこか歌をトチる。皿を洗いながらだから歌に集中できないし、何しろすぐ脇には拓郎がいる。皿が滑って落ちそうになったりする。
おそらくNGテイクに近いようなものを、わざと使ったに違いない。

こういう、素人を素人らしく使ったCMって最近少なくなっていて、逆にいけるかなってのが感想。
あれ?・・・これも電通関西だ! やっぱり堀井グループ?
 

他に目立ったのは、稲垣吾郎の人材派遣会社キャリアスタッフ、電通関西堀井グループが中尾ミエを年増人魚に化けさせた(笑)三重県の観光団体(笑々)など。
中村玉緒が鳩時計よろしく時を告げるゆうパック時間指定配達便も入ってるけど、これって嫌い。中村玉緒のキャラに頼ってるだけだし。
それにゆうパックは午前、午後、夜間の3つの時間帯指定しかできないし、夜は8時まで。民間の日通ペリカン便とか、もっときめ細かく時間が決められるし、夜8時以降配達って指定もできるんだぞ。そういう決定的な弱点をさも有利な点のように装うのは、広告制作者の怠慢ではないかと。
あと、♪サカイ〜やすい〜 仕事キッチリ!のサカイ引越センターが入賞。こういうのが正当に評価されるのはうれしい。
 
 
 

ACC賞 96本


ここまでいくと、「できたて飲ムカ?藤原ノリカ?」とかくだらないタレントCMも入ってくる(この商品名答えられる?)。そんな中で、「えっ、こんなのも入ったんだ♪(ニコニコ)」ってのと、「えっ、こんなとこ止まり?(プンスカ)」ってのを。
 

エニックス せがれいじり 『大リーガー』15秒
制作:博報堂+葵プロモーション
 

RPGでもアクションでもない、“おバカ”という新ジャンルを切り開いたゲームソフト(笑)。そのCMも、やっぱり新ジャンルっぽい。
バッターボックスに立つ、マーク・マグワイヤのような大リーガー。テレビ中継で見られるような、何度もバットを構え直したりユニフォームのシワを気にしたり。そのうち手が、ユニフォームの股間をまさぐる。と、子供の声で「せがれいじりぃ」。。。
これまでの基準では評価できにくいCMだが、こういう新技法のCMが入賞すると、「やるじゃん審査員も!」と褒めてあげたくなる。
 

ゴールドマン・サックス投信 『インタヴュー』60秒
制作:博報堂+太陽企画
 

ドラキュラがインタビューに答え、資産管理のコツを話す。何百年も生きてきただけあって、第1次大戦直後のドイツの大インフレや冷戦終結後の世界経済の変動など、リアリティの伴う回答。
そんなドラキュラの奨める投資信託会社はゴールドマン・サックス。「彼らは人間にしては長い目でモノを見ているからね」と、皮肉のこもったセリフとともに。
金融業界のCMにしては抑えめのユーモアがあり(プロミスとかのバカなCMと違って)、映像も凝っていて、出色の出来。
 

ストロベリー・コーンズ ピザ3兄弟 『ピザ3兄弟登場』15秒
制作:ライト・エージェンシー+バウハウス+スタジオレック
 

商品自体が“だんご3兄弟”の便乗だが、それに輪をかけて素晴らしいのがこのCMのロケ現場。輪島功一の経営するだんご屋の前で撮影している。
輪島のだんご屋といえば、真っ先に便乗商品“だんご四人家族”を出した店。画面にはしっかり、その名を書いたのぼりも映っている。さらに輪島自身もオチで出演し、「ま〜た便乗商品かい」などとのたまう。
これはもう、企画がすべて。よく出演OKしたなぁ。
 

新川広域圏事務組合 不燃ゴミ分別 『チャカポコ音楽隊』15秒
制作:富山テレビ事業
 

アルミ缶、スチール缶、ガラスビン、ペットボトル・・・。さまざまな不燃ゴミを手に持った子供たちが、それを楽器として音を鳴らし演奏する。それぞれのパートが映るとき、下に「アルミ缶は○曜日」と、収集日を示すテロップが出る。
自治体のCMだと、とっても事務的な告知に終わりそうだが、それを“楽器に使う”というワンアイデアでチャーミングなCMに仕立てた企画力。それを考えたのが、一地方局の子会社の、たぶん広告専門の企業ではないところだというのがまた感心。
 

北国太陽テント 『テント君』15秒
制作:富山テレビ事業
 

♪北国太陽テントのテント あるとうれしい ないと寂しい 北国太陽テントのテント あると盛り上がる ないと盛り下がる♪と、脱力感を誘う歌。そのうえ画面に映るのは、線画で描かれたぞんざいなテント君とテントちゃんのアニメだけ。この低予算を強調する仕上がりが素晴らしい。
これまた富山テレビ事業の制作。同社はもう1本入賞しており(首都圏でも放送された富山県イメージアップCM)、ここには才能のあるプランナーがいるはず。
 

セイカ食品 南国白くま 『釣り』『天体観測』15秒×2
制作:博報堂九州支社+ティーアンドイー
 

かき氷に練乳と小豆あんをかけたものを、白くまというらしい。鹿児島では有名らしい(有名でないと、このCMが成立しない)。
画面に登場するのは、着ぐるみの白クマと女の子。2本とも白クマの独白。たとえば『釣り』編では、どこかの川で釣糸を垂れる白クマが、「親父はよくペンギンとか釣っとったらしいけど(なぜか関西弁)、俺、鹿児島生まれやから、ペンギンとか見たことあらへん」。この“鹿児島生まれ”というのがオチ。たぶん白クマの声は、ダウンタウンの番組によく出てる板尾創路。
こういう低予算でちゃんと目立つCMを作るのこそ、プロだと思う。
 

味の素 うどんおでんだしどんでん 『当たりません』15秒
制作:電通+電通関西支社+電通テック大阪支社
 

元阪神の岡田彰布とアホの坂田が共演するだしの素のCM。岡田「今どんでんを買うと1万円が…」坂田「当たりません」岡田「今どんでんでうれしいプレゼントが…」坂田「当たりません」岡田「どんでんで…」坂田「な〜んも当たりません」 ・・・ご丁寧に、“※本当に何にも当たりません。”のテロップまで出る。
この、今までなかったアプローチって、もっと評価されてもいいはずなのに・・・。ま、これも電通関西堀井グループの作なんで、あんまり上位入賞が多すぎると思ったか?
 

トヨタ自動車 スターレット 『魚屋』15秒
制作:電通+電通テック
 

魚屋にやって来た加藤紀子、店のおやじさんに「今日のおすすめは?」と尋ねる。するとおやじさん、「今日はこれ、スターレット! 安いよ!」。
さらに傍らの水槽には “ABS”“デュアルエアバッグ”などと腹に書かれた5人組《安全5点セット》が泳いでいて、「奥さん美人だから、これもオマケしちゃうよ」。
「へい、まいどあり!」の言葉に送られて、買ったスターレットに乗って店を出る加藤。画面には車両価格も映るが、この数字までバーゲンのチラシのような書体。
このシリーズ、すっごく面白かったのにこんなとこか・・・。ま、これも電通(当時)の多田琢氏の作だから。
 

東日本旅客鉄道 トレイング 『長野新幹線「あさま」潜水艦』15秒
制作:ジェイアール東日本企画+電通+ライトパブリシティ
 

たぶん洋画のパロディなんで、出てくるのはほとんど外国人。
潜水艦の作戦指令室、艦長は海に面してない長野に、無理やり潜水艦で向かおうとする。新幹線なら78分で行けると進言する黒人の乗組員と田中麗奈(浮いてるけどトレイングシリーズの統一タレントだったんで)。
しかし強行する艦長。黒人乗組員、「あなたは間違っている!」。
これもなんで、シリーズや30秒バージョンで応募しなかったんだろ? でもこれも、多田氏の作なのね・・・。
 

他には、九州からの応募作が目立った。今、九州の広告って、東京、大阪に次いで面白いのね。
でも入賞作にはデパートのCMが多くて、気取ってて好きじゃなかった・・・。