テレビ ACCグランプリ 1本


象印マホービン 圧力IH炊飯ジャー 『登場』『平熱』『おもち』『仏の顔』30秒×4
制作:電通関西支社+高映企画
クリエイティブディレクター:中治信博
プランナー:中治信博+阿部光史
コピーライター:中治信博+阿部光史
プロデューサー:三枝桃子
プロダクションマネージャー:田中正範+綱雅代
ディレクター:関谷宗介
カメラマン:中堀正夫
照明:磯野雅宏
美術デザイナー:池谷仙克
タレント:岩下志麻
 
 

まずスタッフの説明から。
クリエイティブディレクター(CD)とは、広告企画の総合責任者。プランナーは、CMのアイデアを考える人。企画の大もとだけを考えるタイプから、細部まで最初から決めている人までさまざまだが、CM企画の根幹を担うことは間違いない。コピーライターと兼ねることも多く、逆にコピーライターは、プランナーとしてCM制作に参加できなければ非常につまらない。

プロデューサーは、CM制作の場合は制作管理の総責任者を指す。スタッフの調整や費用管理を行い、音楽などの分野のように制作アイデアなどに直接関与することはまずない。
プロダクションマネージャー(PM)はさらにその下で実務を行う。撮影までの準備、撮影現場での手伝い、後片付けなど、それはそれは忙しく立ち働く。屋外ロケで車を止めたり、腰にガムテープを通していたりするのは、全部プロダクションマネージャーだ。テレビ番組の制作ならADみたいなもの。

ディレクター(演出家)やカメラマンは映画などと同じようなものだが、ディレクターとカメラマンは別の人がやるのが普通。ディレクターは、映画をよく撮っているような人がやることもあるが、CM制作プロダクションに所属しているようなCM専門に手がけている人が担当することが多い。逆にカメラマンには、動く映像でないスチールの写真を撮っている写真家が起用されることもままある。

この中でCMの内容を左右するのは、1にプランナー、2にCD、3にディレクター。面白いCMを見かけたら、それはこの3職種の誰かの力と思ってよい。
 
 

さて。このCMは、商品の炊飯ジャーのCMタレントに岩下志麻が起用され、広告主の象印マホービンの社員から商品についてのレクチャーを受けるという設定。タレントCMの裏側を描いたものといえる。
ほぼ象印の提供番組内でしか流れず、その提供番組の数自体少ないため、あまり目にしたことはないと思う。私もこの計4編のうち、2編は見たことがなかった。

『登場』編は、岩下志麻の出演までは決定しているがその起用法が社内でも最終2案で意見が分かれ、決断を岩下にしてもらうというもの。
ひとつは“象印夫人”という、岩下がそのままの姿で出ればいい極めてノーマルな案。もうひとつが笑える。その名も“象印仮面”。ご丁寧に、象の顔の仮面まで用意されている。「これじゃ私、顔映らないじゃない」と即座に却下する岩下。

『平熱』編から、本格的に商品の説明に入る。
この炊飯ジャーの特長は、内部の圧力を少し上げることで100℃でなく104℃で沸騰させるようにしたこと。これによって、米の中までよく火が通りおいしく炊けるのだ、と象印社員の説明。
しかし、岩下が反論する。「でも、たった4℃でしょ?」。象印社員が、逆に岩下に尋ねる。「岩下さん、平熱は何度ですか?」。「36℃…くらいかな?」。すると象印社員、「それが40℃になったら、大変ですよね?」。
「でも、」と岩下、「それは屁理屈よね?」。・・・押し黙る象印社員。

『おもち』編は、さらに突っ込んだ説明。
温度を上げればいいかというと、上げすぎると今度は柔らかいおもちみたいな米が炊き上がってしまう。
ところが、また岩下、社員を困らせる一言。「私、おもち大好き」。
・・・象印社員、「毎日食べるご飯が、おもちみたいになっていいんですか?」。岩下「私、毎日おもちでもいいくらいよ」。
・・・象印社員、悩んだ末に「お正月に食べるものが、なくなってしまいますよ?」。岩下「それは、お正月になって考えればいいことじゃない?」。象印社員、ついに根負けして「そうですよね…」。

『仏の顔』編では、いよいよ岩下も理解したらしく、象印社員の言葉に素直に応じる。
社員「IH炊飯ジャーは?」岩下「4℃の違いが大違い」。社員「違いは?」岩下「4℃」。
ノッた象印社員、ついでに「仏の顔は?」。岩下「3度」。象印社員「素晴らしい…」。
 
 

このCMがグランプリに選ばれた理由は、凡百のタレントCMを皮肉っていると受け取られたかららしい。しかし、広告として伝えるべきことを見事に伝え切っている点を忘れてはならない。
このCMを見終わった後には、「4℃の違いでおいしく炊ける象印の炊飯器」のメッセージが確実に残っている。
タレントCMでは、タレントの顔は覚えていても商品は覚えていないことが往々にしてある(観月ありさの出てる携帯電話のCMはどこの会社だ?)。それを解決する方法には商品名の連呼などがあるが、このCMではそういうありがちな手法を使わず、しかも「耳障り」などの苦情(携帯空間Fun!Car!Go!みたいなね♪)のあり得ない形で成立させている。
実はとっても高度なテクニックなのである。
 
 

このCM企画のキーマンは、ひとり4役をこなしている中治信博氏。CDとプランナーとコピーライターと、・・・・あれ?あとひと役は? 
実は中治氏は、出演までしている。象印マホービンの社員として男が3人出てくるが、その中のひとりが中治氏。あと2人のうちひとりも、中治氏の同僚の電通関西社員だったりする(ひょっとしたらもうひとりもそうかも)。
出演料がタダになって安く作れるのはもちろんだが(笑)、自分の発想どおりの演技をしてもらうには自分が出るのがいちばん、というわけ。実際に中治氏は、金鳥のCMなど多数出演している。

こんな中治氏が所属しているのが、電通関西でも有名な堀井チーム。数々のヒットCMを作り、現在は電通関西支社クリエイティブ局長になっている堀井博次氏を中心にした制作グループである。
代表作は、ざっと挙げただけでも、金鳥の各種製品、ミスタードーナツ、関西電気保安協会、ケンミンの焼ビーフン、富士通タッチおじさん、コピー機の三田工業・・・。
何しろ、一冊の本にまとまるくらいの名作がある。マドラ出版:刊『堀井博次グループ全仕事』、ご参考までに。
 
 
 
 

ラジオ ACCグランプリ 1本


リクルート フロム・エー関西版 『ジャスト・アン・アルバイター/彼の部屋』60秒
制作:電通関西支社+ビッグフェイス
クリエイティブディレクター:中治信博
プランナー:池田定博
コピーライター:池田定博
プロデューサー:大久保佳昭
ディレクター:池田定博
ミキサー:山口初行+加藤弘士
音響効果:step
ナレーター:小河原和子
ナレーター+歌手:笹川由起
作詞:池田定博
作曲:林あきひと
 
 

ほぼ全編が歌。どう聴いても宇多田の『Automatic』を意識している。
で、むっちゃ笑える。フリーアルバイターの彼を持つ女の気持ちを歌ってるんだけど、♪ゆあじゃすとあんあるばいた〜♪のとこなんて、そっくり♪It's automatic♪と重なるし。歌ってる女も下手だし。

で、こんなCMを作ったのは、テレビCMのグランプリと同じ電通関西堀井グループ。プランナー兼コピーライター兼ディレクターの池田氏は、コピーライターならいつかは獲りたいTCC新人賞も全編歌のラジオCMで獲ってるし、こういうCMはお手のものらしい。
 
※以下、4月1日追加
全編のナレーションが判明したので掲載。
女「私の名前は“アルバイ田めくる”。今日もフロム・エーをめくる。」
ここから歌。♪彼の部屋のベッドの下 フロム・エーが落ちていた バイト探してるの? どんなバイト先探してるの?
フロム・エーなら 表紙にインデックス載ってるから きっと探せるよ 職種&業種で選ぶ憧れのバイト♪(セリフで)「えー、こんなバイトもあったの!」
♪フロム・エーでアルバイト あなたらしくバイト選び でもたまには私との時間作ってね ユアジャストアンアルバイタ〜〜♪
・・・なんてツボを心得てる歌詞なんだろ(笑)。