コピーライターに

“どうしても”なりたいあなたへ

 
 

前の講で、電通か博報堂に入るのがコピーライターとして最上のスタートラインだ、と述べました。これは疑いようのない真実です。一流コピーライターの証であるTCC新人賞が、電博の社員なら入社2年でも獲れる、それ以外(電博を除いた代理店勤務も含む)だと10年くらい平気でかかってしまう、ということでもわかるでしょう。
しかし、もちろん電博に入るだけがコピーライターになる道筋ではありません。言わばこちらは“コピーライターへの道/現実編”。さぁ、進みましょう。

※実は、電博に入社したとしても落とし穴はあります。制作局へ配属されず、営業など他の職種に回される可能性があるのです。それでも「クリエイティブ転局試験」という制度がありますが、これに受かるのはとてつもなく制作の能力が優れている人だけです。
 
 
 

さて、あなたはどれに当てはまりますか?

1.有名大学在学中だが、成績があまり良くなく、体育会にも入っていない
2.成績はいいが、地方の無名大学に在籍
3.既に大学を卒業し一般企業に就職したが、やっぱりコピーライターになりたい
4.そもそも大学を卒業していない(大学中退・高卒)
5.もう30歳を過ぎている(もちろん広告業界未経験)
 
 

1のあなた
 

まず入りやすいのは、中小の代理店です。「無名メーカーの人事部に電話をかけて大学名を告げただけで入社が決まった」なんて逸話がありますが、これは広告業界でも当てはまります。
だいたいあなた、電博以外の広告代理店の名前って知ってます? 不動の業界3位アサツーディ・ケイ、さらに大広東急エージェンシー読売広告社I&S/BBDOマッキャンエリクソンジェイアール東日本企画朝日広告社毎日広告社TBWA/JAPAN日本交通事業社なんてとこが売上高ベストテンを争ってますが、これ全部知ってる大学生なんてほとんどいないでしょ?(学生でも調べればすぐわかるでしょうが、私はこれらの社名を記憶だけで書いてます) 業界30位くらいまでは新卒でコピーライターを募集してますんで、片っ端から連絡をとってみてください。大学の名前だけで入れるところもあるはずです。
他には制作プロダクション。なるべく大規模なところを狙ったほうが採用人数も多く、有名代理店とのつきあいもあり大きな仕事ができます。逆に下手な代理店に入るより仕事の質も高く、師弟関係が残っていて面倒をよく見てくれる可能性がありおすすめです。私が今まで勤めたプロダクションにも、ほぼ毎年のように早稲田の学生が入社してきていました。
 
 

2のあなた
 

地元密着型のあなたには、地元密着型の代理店がおすすめです。たとえば東海地方では新東通信や三晃社、九州では西鉄エージェンシーや西広など、地域限定で電博の地方支社に肩を並べるほどの有力な代理店があります。こういうところはやはり、地元の人材をより歓迎するはずです。
地方にもプロダクションはありますし、代理店よりも入りやすいでしょうが、あまりおすすめできません。もともとコピーライターという仕事は、地方では職業として認められにくいところがあります。「コピー料」という名目の料金請求が認められず、デザイン料に上乗せして請求した、というのがほんの十数年前の事実です。
マス媒体の広告はもともと少なく、地方新聞の紙面の記事体裁の広告(いわゆる“記事広”)、折込広告やチラシ、タウン情報誌、さらには店頭POPやパンフレットなど、コピーライターというよりライターやSPプランナーに近い感覚の仕事がどうしても多くなります。私がある地方の広告プロダクションに訪問に行ったときには、「仕事は自分で作らないとないよっ」と言われました。
東京に出てきたいなら、狙い目は外資系代理店でしょう。旧来の日本型の会社より外資企業のほうが人物そのものを重視する傾向があるのは、広告業界でも同じです。ただし注意したいのは、外資系で新卒採用をしている会社がそう多くないことです。たとえばナイキやユニクロの広告で有名なワイデン&ケネディなど、中途採用の募集でさえ「コピーライターひとり募集」と採用人数を明記していたくらいです。
 
 

3のあなた
 

あなたが最初にすべきことは、求人情報の収集ではなく、広告の勉強です。新卒でないということは中途採用になるわけで、あなたの競争相手は既にプロとして活躍している経験者です。「未経験者可」と書いてあったって、経験者のほうがより歓迎されるのは言う間でもないことです。
コピーライター養成講座に通いましょう。就職口の紹介の機会までありますし、行かない手はありません。私がプロの経験数年の頃、ある代理店の求人で、講座を修了したばかりの未経験者に採用をかっさらわれたことがありました。
講座に通って「大丈夫、やっていける」と思ったら、そこではじめて求人情報を集めましょう。いちばんいいのは朝日新聞日曜版の求人広告欄です。他に一般の転職情報誌、『コマーシャルフォト』などの広告業界誌にも求人情報は載っていますが、あなたを受け入れてくれる「未経験者歓迎」の広告がいちばん多いのは朝日新聞です。たぶん行先は、どこかの制作プロダクションでしょう。代理店はほぼムリなはずです。
講座は働きながらでも通えます通っている間に「やっぱり自分にはムリだ」「ウラを知っちゃうとつまらないな」と思わないとも限らないので、ちゃんと戻れる席は確保しておきましょう。早まって、それまで勤めていた会社を辞めてからめざす、なんてことをしないように。それくらいギャップのある仕事なんですよ、コピーライターって。
 
 

・・・何だかんだ言って、1〜3の人って幸せなんですよ。とりあえずどっかの会社でコピーライターの経験を積めば、中途採用で電博に入るチャンスもあるんですから。
では、その大卒のパスポートのない4のあなたへ。
 
 

4のあなた
 

養成講座に通う、求人情報を集める、入れるのがほぼプロダクションに限定されるのは、3の場合と同じです。大きく違うのは、3に輪をかけて就職が困難なこと、その後どんなに経験を積んでも電博に入るのは約100%、その他の代理店に入るのも約90%ムリなことです。
何十社も落とされるのは覚悟しておいてください。3で挙げた求人情報元の他に、あらゆる手を使って就職先を見つけてください。インターネット上にも、転職情報専門サイト、広告関連サイトなど、いろいろ情報が転がっています。
ちょっと各情報元の特徴を記しておきましょう。未経験可の情報の多さ、採用先の仕事の質などを勘案し、☆◎○△の印をつけてみました。

☆ 朝日新聞日曜版 
量・質とも他を凌駕。未経験可の情報も多い。最おすすめ。
◎ 月刊コマーシャルフォト 
巻末近くの『CP求人情報』ページに数十社ぶんの求人情報を掲載。デザイナー・写真アシスタントの求人に混じってコピーライター募集が、多いときには十社以上ある。
未経験者可はそれほど多くはないが、ある程度実力のあるプロダクションの情報ばかりで粒揃い。
△ 月刊宣伝会議 
『STEP UP』ページに求人情報を毎月数社ぶん掲載。未経験者可の情報はあまりない。
制作者だけでなく広告に関わるすべての職種を対象とした雑誌の性格上、デザイナーよりコピーライターの求人が多い。
△ 月刊広告批評 
不定期に求人広告を掲載。コピーライターの求人が、多いときには3社ほどある。ほとんどは有名プロダクションだが、それだけに未経験では厳しいかも。
△ 月刊ブレーン 
月1〜2社ほど求人広告の掲載あり。掲載がないことも多い。
◎ 週刊B-ing 
求人情報誌の中では、広告制作者の募集が最も充実。未経験可の情報も多い。
○ 週刊DODA 
B-ingに比べると制作者の求人は少ない。コピーライターの募集が1件もないこともある。
◎ フロム・エー(週2回) 
アルバイト情報誌だが、嘱託・契約社員、さらに正社員募集の情報も載っている。B-ingと同じリクルートが出版しているため、コピーライター募集は多い。
アルバイトの情報中心なので、それだけに「未経験者歓迎」「経験1年以上」などハードルが低い。
○ アルバイトニュースan(週2回) 
同じくアルバイト情報誌。少しだがコピーライターの募集情報もある。
△ TCCホームページ http://www.tcc.gr.jp 
東京コピーライターズクラブのホームページ。掲示板にコピーライター募集の情報が載っていることがある。未経験者可の情報もあり。
その他“コピーライター”をキーワードにして検索すると、広告関係のサイトが見つかり、コピーライターの求人情報も掲載されていることがあります。一般の求人サイトもチェックしておきましょう。
 
 

5のあなた

・・・できればあなたには、あきらめてほしいと思います。コピーライターって仕事をナメてませんか? 広告のターゲット、正確に言えば広告で売れるような商品のターゲットは、あなたより若い人が主です。そんな自分から遠い人の気持ちをちゃんと想像できますか?
さらに。運よくプロダクションに入れたとしても、あなたの先輩のほとんどは20代そこそこです。そんな年下の指導を素直に聞けますか? 人間関係をうまくやっていけますか?
それでもやりたいと言うなら、ムリに止めはしませんが。でも、苦労することは覚悟しておいてください。「こうすれば入社できる」ってアドバイスも特にありません(って言うか、できません)。
 
 



−−−−−私の場合−−−−−







●1社め

『広告批評』誌で見た求人の条件は「25歳くらいまでの経験者」
当時20歳でまだ大学在学中、もちろん未経験だった私は、必要書類の他に独自の判断で、「自分がいかにコピーライターになりたいか」を記した作文を添えました。書類審査の後、一般常識の筆記試験とクリエイティブ試験(紙に書かれた品物を規定時間内に電話をかけて捜し出すという内容でした)、さらに面接。
面接では「ここに受かったら大学を辞める。受からなくても大学を辞めて他の会社を探す」と意気込みを述べました。
結果的には、筆記試験の成績がトップだったのが物を言い採用されました。1社しか受けていないのに入社できた、たいへん幸運な例です。
 

●2社め

『フロムエー』に載っていた条件は「経験1年以上」
経験者の採用試験では過去に自作した広告を持参し、それが重要な判断材料になりますが、1社めで私が作った広告はゼロで未経験も同然。コピーは書いたが最終的な制作物にはならなかった仕事があったので、そのコピーを原稿用紙のまま持っていきました。それだけでは採用担当者も判断しづらいだろうと考えたので、クライアント/商品/コンセプト/表現上の留意点など、制作の背景を箇条書きしたものを1枚添えました。
コピーライターといっても制作進行管理に近い仕事を担当してほしかったようで経験があまり重要でなかった、正社員でなく嘱託社員の募集だったなどの好条件が重なり、無事採用。さらに幸運なことに、入社直後に雑誌のシリーズ広告チームの人材が足りなくなり、そのサポートに回されました。これを足掛かりに、考えていたよりずっと大きな仕事をしていきました。
ただし、1社めの退社から十数社を回っており、再びコピーライターの職を得るまで1年かかっています。
 

●3社め

朝日新聞日曜版『コマーシャルフォト』(このように同じ求人情報が複数の媒体に載ることがよくあります)で見た条件は「30歳くらいまで/経験3年以上」
条件にピッタリのうえ、既に2社めで相当数の広告を作っているので、その実績が認められ採用。
しかし、採用までやはり20社ほどから落とされています。
 

●4・5社め

3社めを退社する頃からクリエイター専門の派遣会社が発足するようになり、数社に派遣登録。その紹介により派遣社員として勤務。なお、派遣社員から正社員への採用もあるのだそうです。

 
3〜5の人がコピーライターの仕事を見つけるのに最も重要なのは、はっきり言ってです。その運をつかむのは、トライアルの多さ、「自分がどれだけ能力・適性があるように見せられるか」のハッタリです。そして、ハッタリをいかにして作るかは、あなたの創意工夫=クリエイティビティです。
コピーライターは、その入口からクリエイティブであることが求められるのです。がんばってください。